謎の貼り紙「四万六千日」

藤橋 由希子


夏が近づくと金沢の市内中心部では、「四万六千日」(しまんろくせんにち)とかかれただけのチラシを目にするようになります。
これって何なの?と思われる方も多いので、今回はこれが一体何なのかについてサクッとご紹介しましょう!

そもそも「四万六千日」っていつのこと?

四万六千日はどこから数えて、とか固定的に毎年〇月〇日といった日を指すものではありません。
毎年金沢では、旧暦の7月9日にあたる新暦の日を、四万六千日とさだめています。ちなみに、令和元年の四万六千日は8月9日ですが、来年は違う日になると思います。
この日は観音菩薩の功徳日ということで、この日にお参りすると、いつもよりもご利益があると言われています。

ご利益はどれくらい?

四万六千日というのは、観音菩薩の功徳日にあたり、この日にお参りすると、普段以上のご利益があるということで、普段以上ってどれくらいかというと、何と〝一生分”と言われています。
なぜ一生かというと、まどろっこしい話になるのですが、一生というものを一升に転換して、一生升に置き換えます。
かつて一生升は色々なものの量をはかるときに使われた、言わば計量カップのようなものでした。
この一生升にお米を擦り切りいっぱい入れて、その数を数えたら、四万六千粒あったというのが語源らしいです。
そこから、一生=四万六千日という解釈になったと言われています。
とはいえ、これを年数に直すと126年になり、現実離れしてますね。
四万六千日にお参りすると、四万六千日分お参りしたのと同じくらいの功徳が得られるというハイパーなご利益日なのです。

四万六千日で売られている謎の「トウモロコシ」



四万六千日の法要をしている観音院に行くと、境内には沢山のトウモロコシが販売されています。
これが金沢の四万六千日の名物です。ですからこの法要の事を通称「とうきび市」とも言われます。「○○市」というもので有名なのが、東京浅草にある浅草寺で行われている「ほおずき市」というものがあります。
実は金沢の「とうきび市」と「ほおずき市」はとても縁深いものがあります。
「ほおずき市」という名前が浸透しているこの法要日も実は、四万六千日なのです。
浅草寺は旧暦の7月9日にちなんで、毎年7月9日、10日に開催日を固定してほおずき市を開催しています。
ほおずき市で売られるほおずきは商売繁盛を祈念してということで、たわわに実をつけたほおずきを買い求める参拝客が大勢いますが、金沢も同様で、トウモロコシは商売繁盛のお守りです。
粒(マメ)がぎっしり詰まった様を「マメに働く」「子孫繁栄」、ひげ(毛)が多く、長いものが「儲け(毛)が多い」として、ご利益のある祈祷済みのトウモロコシを買い求める参拝客が多く、遅い時間に参拝に行くと売り切れているということもあるほどです。
このトウモロコシは、玄関先に吊るすのがしきたりで、観音院の場所柄、ひがし茶屋街周辺では特にトウモロコシを吊るしたお店が目立ちます。
ちなみにこのトウモロコシは1年間吊るしたものを、翌年の四万六千日に持って行き、新しいものを購入する際に、お炊き上げしてもらうのにお寺へ返します。
この日限定の御朱印もあるので、御朱印集めをしている方は是非GETしてほしいですね!

観音院うんちく



観音院はその名の通り、観音様を祀ったお寺です。
このお寺へ続く道は「観音通り」と名前が付き、そのあたり一帯の町名も「観音町」と言います。
金沢は浄土真宗の宗派の多い地域ですが、お寺の名前が通りや町の名前にまで付いているものはほとんどありません。
この観音院が何故ここまで大事にされていたか。それが金沢の歴史にちなんだものになります。
藩政時代の前田家2代目藩主前田利常の正室は徳川家康の孫にあたる珠姫でした。
珠姫は観音菩薩に信心していて、観音院は珠姫が参拝に訪れていたお寺でした。
このため、加賀藩にとっても観音院は大切なお寺で、大切な珠姫が参拝しやすいようにと、参拝道(観音通り)もまっすぐ歩きやすく整備したと言われています。
藩政時代の金沢は敵が攻め入りにくい町づくりをしていました。
簡単に言うなら、道を狭く入り組んで、くねくねと曲がり角を多くしたというもの。
今なお残る金沢の道の複雑さは、その名残と言えます。
ですから、金沢の町でまっすぐな道というのはとても意味のあるもので、実はたった3本しかなかったと言われています。
そのうちの1本が、この観音通り。
2本目が金沢城から珠姫を祀った天徳院に続く小立野(石引)通り。これは代々藩主が徳川家への忠誠を示すために、参拝していたため、まっすぐに整備されたそうです。
最後の3本目は、金沢港(金石港)から物資を城下に運び入れるために整備された、金石街道です。
ということで、前田家が如何に徳川家に気を配っていたかを感じられるのが、この観音院とその周辺なのです。

まとめ


いかがでしたか?
観音院エリアはひがし茶屋街のすぐ隣に通りをずらしただけの場所に位置しています。
茶屋街の歴史とは全く違う物語が同じエリアに存在しています。
金沢の魅力として少しは伝わったでしょうか?
金沢の隠れた魅力「四万六千日」にタイミングが合えば、是非お参りしてトウモロコシをお買い求めくださいね!
ちなみに令和2年の四万六千日は8月27日ですよ!


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