塩vs醤油 あなたはどっち?

藤橋 由希子



美味しい料理の引き立て役として欠かせない塩と醤油。どちらもその味わいについて「しょっぱい」と表現される似た者同士のようにに思えますが、それぞれに色々な種類がありますね。私たちが日ごろなんとなく無意識のうちに使い分けている塩と醤油。今回はそんな塩と醤油について、ちょっとだけ詳しくなれる情報と、当館で使用している地元産の塩と醤油がなぜこんなにおいしいのか、そのこだわりや特徴をご紹介したいと思います。味の確認がしたくなったアナタは是非金沢へ、そして当館へGO!

塩の生い立ち

島国日本の塩づくりは言うまでもなく海水を原料としています。日本で初めて塩が作られたは縄文時代で、「藻塩焼き(もしおやき)」という製法で作られました。藻塩とは、海藻類に何度も海水をかけて塩分を多く含ませ、それを焼いて灰にしたものをさらに海水に溶かし、濃い塩水(かんすい)を作り、それを煮詰めて作られた塩の事です。海藻の栄養成分なども含んだ藻塩は、発祥の地とされる瀬戸内地方の特産品にもなっています。

揚げ浜式と入浜式~塩の作り方~





塩の作り方は今も変わらず、まず濃い塩水(かんすい)を作って、それを煮詰めて結晶化させることで作られています。かんすいの作り方には大きく分けて2種類の方法があります。揚げ浜式と入浜式です。

揚げ浜式

揚げ浜式は平らにならした砂の層(塩田)の上に海水を撒き、太陽の熱で水分を蒸発させまた海水を撒く。これを繰り返すことで、砂に沢山の塩を付着させ、それを集めて海水を混ぜてかんすいを作ります。

入浜式

入浜式は海水を運ぶ作業を塩の干満を利用して行ったもので、満潮時に塩田に効率良く海水を導き入れられるような溝や堤防を作りました。労力が減った分、海水を含ませるタイミングは自然の力に任せることになるので、入浜式は気候の良い瀬戸内地方で発展してゆきました。ですが、技術の進歩からかんすいを作る工程は随分変わり、海水はポンプによって汲み上げられ、海水中の塩分は電気(イオン)の力を利用して楽に大量のかんすいを作ることが可能となりました。このように今では天候に左右されずに大量に塩を作ることができるようになりましたが、その原料は今も変わらず海水なのです。

うま味たっぷり!能登塩



大きく進歩した塩づくりですが、能登半島で作られている塩は昔ながらの製法を守り、手間暇をかけて作られています。有名なのは何といっても日本で唯一揚げ浜式で作られている能登半島の先端、珠洲(すず)市で作られている塩です。「奥能登珠洲塩田村」では、先にご紹介した通りの製法で、浜辺から海水をくみ上げて塩ができるまでの製造が見られる唯一のスポット。奥能登を代表する観光スポットとしてとてもにぎわっています。

かんすいを大きな釜で炊き上げる工程は、工場の中が暑くて大変ですが、こうして作られた塩は一般に売られているものと比べて粒が大きく、味わい深いのが特徴。塩分よりもうま味を感じる能登塩はお土産にも大人気です。塩田村に行かれる際は、悪天候時や冬場は塩作りができないため資料館しか見ることができませんのでご注意ください。

そして能登にはもう一つ美味しい塩があります。

それが能登半島は能登町で汲み上げられた海洋深層水から作られた塩です。海洋深層水は、不純物が少なくきれいなことから、魚の持ちがいいと、魚屋さんや飲食店のいけす用の海水としても活用されています。ここで作られる塩は、3トンの海水からわずか60キロしか作れない(作らない)、質にこだわった塩です。

能登半島内浦(七尾湾に面した地域)の海底数百メートルの深海からくみ上げた海洋深層水は、珠洲の揚げ浜塩田の釜よりも低温の、60度で5日間もかけてゆっくりと炊き上げられてることで、揚げ浜式よりも粒が大きくミネラル豊富な塩になります。味は不純物を含まない海水を使用しているせいか、雑味がなくきりっとした塩気のあとにじんわりと甘みやうま味が感じられます。

何となく文章を読むと、海洋深層水の塩の方を良く紹介しているように感じられるかもしれませんが、その通り!実は当館で使用している塩はこの海洋深層水から作られた能登塩なのです。塩の味わいと魚との相性を感じられるように、当館ではお造りを醤油と塩で食べられるようにしています。きっとこの相性の良さに驚かれると思いますよ!そしてこの塩はまだまだ形を変えて登場する予定です。こうご期待!

醤油の生い立ち

醤油の生い立ちは味噌の歴史と絡んでいます。鎌倉時代、中国から和歌山県の湯浅という場所に初めて伝わった味噌づくりですが、その過程の中で偶然できた「たまり」や「もろみ」が醤油の始まりと言われています。

以来日本各地で醤油づくりが行われるようになりましたが、現在醤油の五大産地と称されているのが、小豆島(香川県)、龍野(兵庫県)、銚子(千葉県)、野田(千葉県)、大野(石川県)。そう石川県、それも金沢市の大野地区が醤油の産地として知られているんですよ!

ではなぜ、この地域で醤油づくりが発展したのでしょうか?それは原料である大豆と塩と小麦の調達に「北前船」が欠かせなかったためです。醤油の産地は北前船の寄港地で原料の調達が容易だったことが大きな要因でした。

地域性に富んだ醤油の種類

現在醤油は大きく5種類に分類されています。「たまり」、「濃い口」、「淡口(うすくち)」、「白」、「再仕込み」がそれです。

たまり

たまり醤油はドロッと濃いイメージがありますね。原料にほどんど小麦を使わないでできたたまり醤油は、豆の味わいが強いのが特徴で、主に東海地方で作られているそうです。

濃い口(こいくち)

濃い口(こいくち)は最も一般的ですね。たまりのような濃い色をしつつもさらっとして醤油の風味が豊かな濃い口醤油は、日本で作られる醤油の実に8割というシェアを誇っています。
濃い口しょうゆは、和食発展の歴史の中でも大きな位置づけである江戸(東京)で花開いた食文化の立役者とも呼べる存在で、産地はやはり消費地に近い千葉県が最大で「キッコーマン」や「ヤマサ」がその代表銘柄と言えるのではないでしょうか。
また気候の良い小豆島でも濃い口醬油は作られています。

淡口(うすくち)

淡口(うすくち)はその名の通り濃い口に比べて色が薄く、素材の色を生かしたい料理に使われますね。和食で彩の美しさを語る際に欠かせないのが京料理だと思いますが、そこにはやはり薄口醤油が欠かせません。近畿地方で一般的な昆布出汁の風味を生かすために、色や風味を主張しない薄口しょうゆが生まれました。醤油のあの黒い色は大豆によって作られるそうで、淡口は濃い口に比べて大豆の割合が少なく、小麦を多く使用しています。産地はやはり関西圏の龍野(兵庫県)で代表銘柄と言えば「ヒガシマル」でしょうか。

白は淡口よりもまだ色が薄く、琥珀色をした醤油です。他の醤油の主原料が大豆なのに対し、白醤油は小麦が主原料のため色が薄いのと、醤油独特の風味がなく、淡白な味わいのため、素材の色や風味を活かしたい料理に使われます。小麦独特の甘みが感じられるということですが、私は白醤油を味わったことがないのでわかりません。愛知県で作られているということで、ぜひ味わってみたいものです。

再仕込み醤油

再仕込み醤油は、簡単に言ってしまえば、醤油の風味や味わいを際立たせるために、少し作り方を変えて作られた醤油です。通常の作り方で最後の火入れを行う前の生醤油ができたところに再び麹をいれて二度仕込むということで、時間も原料もかけて作られる贅沢な醤油です。一般の濃い口醤油よりも当然色が濃く、風味も強く、「濃い!」と感じる醤油です。地域によって呼び名が違い、「さしみ醤油」や「甘露醤油」と呼ばれる醤油も再仕込み醤油を指します。生産量は全体の1%程度ということで、スーパーで目にすることも珍しいかもしれませんが、和食店などで味わう機会があるかもしれませんね。

だからおいしい金沢・大野の「甘口(うまくち)醤油」





醤油の5大産地である金沢・大野地区

大野の醤油は先のご紹介した通り北前船の寄港地だったことで、北海道から小麦や大豆が調達できたこと。そして能登の美味しい塩と白山水系の豊かな伏流水という条件が相まって誕生しました。大野で作られる醤油も、やはりメインは濃い口醤油ではありますが、その味わいは他で作られているそれとは少し違います。

石川県は米どころとしても知られていますが、同時に米から作られた麹や糠を活用した多彩な発酵食品も生まれています。大野醤油も発酵の力を借りてさらにおいしく変化しました醤油なのです。大野醤油の味わいはというと、千葉県の有名メーカーの醤油と比べるとその差ははっきりしますが、ほんのり甘さを感じる醤油です。

この甘みこそ米麹の力。酒の仕込みや甘酒でも知られている米麹を醤油の仕込みの段階で投入することで、独自の甘みが生まれます。こうしてできた大野の醤油は「甘口(うまくち)」醤油と呼ばれます。甘いと書いて「うまい(旨い!)」と読めるんですよ。大発見です!

ではなぜこんな甘みを加えたのかというと、この地でどんなふうに醤油が使われてきたかを感じさせられます。石川県は日本海に面しており、周辺には良い漁場が多い地域です。そこで獲れた新鮮な海産物との相性を一番に考えられたのが大野の醤油。海産物は文字通り海水の中で生きてきます。なので、もともとその身に塩分が含まれているのです。そこにさらに塩分を加えるよりも、反対に甘みを加えた方が素材の持ち味を引き出せるという考えから米麹の甘みが加えられました。大野醤油は海産物を美味しく食べるための最高の引き立て役となっているんです。

港町大野について

そんなおいしい醤油が作られている港町大野は、金沢駅からも車で20分くらいの場所にあります。今でも20数軒の醤油メーカーがあり、町屋や醤油蔵が残る町並みは風情豊かです。平日に訪れると、時おり醤油の香りが漂う街には評判の寿司店「宝生寿司」や藩政時代に活躍した郷土の発明家大野弁吉を紹介する「からくり記念館」、もちろん醤油蔵を改装して喫茶や土産物などを販売する「もろみ蔵」「直江屋源兵衛」「ひしほ蔵」など、散策の途中に立ち寄れるスポットも点在しています。

当館では、大野の2か所の醤油蔵から用途に合わせて醤油を使い分けています。

調理用と調味用です。調理用は「カンチョウ醤油」、調味用が「ヤマト醤油」です。そうそう、カンチョウ醤油の社長のお家は立派な町屋造りで、中には先に紹介した大野弁吉の発明コレクションが並ぶ展示室があります。なんでも先代のコレクションだそうで、からくり記念館にもコレクションを貸出しているそうです。

まとめ

普段当たり前のように口にしている塩と醤油。でもこのブログを読んでくだされば、その違いを感じることができて、料理の味わいも変わってくるのではないでしょうか。当館では毎日板長がとにかく手をかけて料理を作っています。美味しい食材をもっとおいしく召し上がっていただけるように、引き立て役の塩や醤油は欠かせません。今回はそんな黒子を主役にして紹介しました。大野の醤油と能登塩を味わいに是非「由屋るる犀々」へお越しくださいね!


最近の投稿